Source: Nikkei Online, 2023年8月8日 2:00
東京国立博物館所蔵のこの愛染明王像は、大型の八角形の厨子(ずし)に納められ、本体の彩色、光背・台座・天蓋まで造像当初の状態がよく残っている点が従来から注目されていた。比較的近年に、大正時代の書籍に記載されていた解説が注目され、第6回「康円 四天王眷属(けんぞく)像」で少しふれた内山永久寺に伝来した像であると知られ、永久寺の記録に記されている同寺薬師院の大和公雲賀(うんが)という仏師が造った像にあたることもわかった。
雲賀は永久寺の記録では「運賀」とも記され、建長7年(1255年)に永久寺本堂の大黒天像を造ったことも知られる。「運賀」は運慶の子の1人と同名であったのでかつては混乱もあったが、東京国立博物館愛染像の由来の確認により、永久寺で活躍する雲賀の姿が浮かびあがってきた。第6回に記したように永久寺で康円の活動が活発だったことや、本像の作風からみて、雲賀は康円と密接な関係があったようだ。
それにしても愛染明王像の厨子内部の絵画は美しい。これらにみられる彩色や切金は、像本体の表面のそれらとも相通じ、いずれも鎌倉時代の奈良のすぐれた絵仏師の手を予想させる。
(13世紀、木造、彩色・切金、玉眼、像高59.6センチ、東京国立博物館蔵)